人間万事塞翁が馬。
人生何がきっかけで良い事や悪い事が起きるかわからない。
野菜を塩蔵にほったらかしにしていて「やべぇ!」ってなって開封したらソースになっていた、みたいに失敗が結果的に成功となるケースがある。
昭和38年の春、東京・銀座でもふとした事から新たなそばの食べ方が産声を上げた。
後の”鴨せいろ”の誕生である。
元祖・鴨せいろ 長寿庵
昭和38年の春、現会長が弊店3階の食堂にて。午後3時頃、いつものように「ざるそば」を食べていた ときのことです。誤って「そば汁」をこぼしてしまいました。
従業員の女子が「汁を持ってきましょうか?」と言ってはくれたのですが、そばも残り少なかったためと、 ちょうど2歳になる長女が食べた「鴨南うどん」の汁が残っていたので、その汁にそばを入れ食べてみることにしました。※公式Webサイトより
うどん用の汁にそばをつけて食べてみたら旨い! と言うのも意外な気がするが、美味しかったのなら仕方ない。
一時流行った”そばめし”だって焼きそば+ごはんと言う炭水化物x炭水化物のコラボレーションである。
っていうかコラボレーションと言うより単なる増量である。
ただ長寿庵に限っては、その偶然の産物である”鴨せいろ”を汁の改良を行う事で偶然の産物から”商品”へと昇華させている。
偶然を偶然で終わらせない部分に江戸の職人の”粋”な姿勢を感じる。
長寿庵は昭和通りから少し奥まった場所に店舗を構えている。
入れ替わりの激しい銀座4丁目近辺と違って新富町や新川にほど近い銀座1丁目界隈は昔ながらのビルや建物が多く残っている。
平日は京橋にほど近い関係でビジネスマンが多く行きかう場所だが休日は一転し、閑静な場所になる。
店内は1Fと2Fに分かれ、席は50席程度だ。
4人掛けのテーブルが多く配置されている。
長寿庵は鴨せいろ専門店と言うわけではないので、他のそばや天婦羅のメニューもある。
敢えてそば屋でそば以外のメニューを頼んで〆的にそばを食べてサッと帰るのも”粋”な気がする。
元祖 鴨せいろ (大盛)
そば・・・しっかりとしたコシとツルッとしたのど越しが絶妙。食べた時のそばの風味を味わうのも忘れずに。
つゆ・・・食べれば広がる鴨のコクにゆずの香り。そばと一緒に啜る汁の味を存分に楽しみたい。
たっぷりの鴨肉が嬉しい、極上そば
一見した所、つゆではネギに目が行くが実際はかなりの量の鴨肉が沈んでいる。
今でいう所のジビエである鴨肉はあまり食べる機会が無いが、鶏肉特有のさっぱりした味わいと脂身は意外にもジューシーだ。
さっぱりの鴨肉に、更にゆずの風味が相まっていくらでも食べられそうな気になる。
途中から胡麻を振り掛けると香ばしさが加わり、これもまた美味しい。
〆として、最後にそば湯が出されるのでしっかりと割ってから飲み干したい。
江戸前の、どちらかと言えば”濃い味”の汁なのでやや多めに割らないと辛く感じるかもしれない。
ただ、そばの風味を含んだ湯で割った汁は鴨・ゆず・そばの三位一体の味わいが楽しめる最高のスープになる。
ふとしたことから見つけた新しい味である”鴨せいろ”を、偶然に甘んじる事無く改良し、今日まで提供してくれる銀座の長寿庵。
普段あまり口にする事の無い”鴨肉”だが、日本人に馴染み深いそばと合わせて、その味をまた堪能したい。
それでは、また。
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長寿庵
営業時間:(平日)11:00~15:00・17:00~21:30
(土曜)11:00~14:00
定休日:日曜・祝日